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人間の真髄を垣間見て…涙
芸術祭真っ盛りの時期である。が、相変わらず低調である。創作作品が貧弱極まりない。まず何を訴えたいかが釈然としない。メッセージが聞こえてこない。この激動の時代、取り上げるべきテーマはいくらでもあるのに、時代感覚が古い。極端なこと「靖国参拝」や「憲法9条」それに「イラク派遣」や「拉致問題」を舞踊化したらどうなるんだろうと、フト考える。古典の素踊りのケースでは、なぜ素にしたのか疑問のまま幕になったりする。今年は協賛公演が充実していて、ベテラン勢の藤間秀嘉や花柳真理子らの会がむしろ勢いがあって面白かった。その分余計芸術祭参加作品が色あせて見えた。特に大ベテランである藤間紋寿郎の、舞踊に賭ける意気込みには頭が下がる。若手と言われる人たちよ、もっと負けずに頑張れといいたい。
プログラムを見ていて気になることもある。普通のリサイタルで評論家先生の言葉が載っているケースがある。しかし、芸術祭参加の場合は審査員は流石載せていないが、公正を期すためにも一般の評論家でも避けるべきであろう。幕間に「先生」との対談などを入れたりしたのが散見されたものだが、これなど以っての外というべきである。本誌では、芸術祭参加作品については事前には採り上げて記事にしないことにするという、最低限のモラルは保持しているつもりである。
いずれにしても決定的なのは面白くないことである。芸術とは楽しませてくれないものであろうか。
今、各種の文学賞受賞者がどんどん低年齢化している。今回、女子中学生が第42回「文芸賞」(河出書房新社)に入賞した。たまたまテレビで本人が感想を述べているのを聴いてギクッとした。確かな表現力と彼女が話している言葉が生き生きとしている。不自然で自分の言葉を忘れたのか持っていないのか、あるいは隠しているのか解らぬような、小泉チルドレンの言葉にならぬ言葉の洪水に食傷気味なところに、実にヴィビットに聞こえたのである。早速本を買って読んでみた。文学とは「言葉」である。その言葉が実に新鮮で個性的である。選者の田中康夫の評が載っている。『凡そ歴史を語り得ず、描き得ぬ政治屋や経営屋や表現屋が跳梁跋扈する「今風日本」に於いて…』言葉で生業を立てる本物の可能性を買っているのである。全く同感である。
昨今の舞踊界において「舞踊」即ち「身体表現」で勝負をするのを観る機会がめっきり少なくなった。これは何とかならないものだろうか。
勝手に再三この欄で採り上げてきた、NHKの「昭和20年の記憶」についてまた一言。早いもので、今は戦後の混乱期にはいっている。見落としもあって半分以上見ていないのではあるが、今まで知る限りでは日本舞踊家や邦楽家は一人だけしか登場していない。しかも、戦時中の話がいまだに印象深く記憶に残っているので、この人の話を紹介する。
その人の話は壮絶である。今は亡き弟思いの彼女が、召集された体の弱い弟を思うあまり、疎開先の新潟から弟のいる山梨の軍のキャンプへ差し入れにいったときの話である。すぐには会える訳もなく泊まりがけになったが、キャンプ周辺では若い女がうろつくという噂まで立つ。それでもその人は諦めない。奇特で人情家の上官にたまたま出会って、その引きでやっとある夜密かに野外で対面することが出来た。弟は低い声でなぜこんなところへ来たのかとなじる。しかし真っ暗の中、言葉と裏腹に弟の眼だけが光って見えたという。それが全てをもの語っていたのである。この話をする彼女の目から涙がこぼれた。そして述壊するように「この頃はみんな悲しい思いをしたんですよ」といった。私も不覚にも涙した。この日私は再放送をまた観た。そしてまた涙が止まらなくなっていた。
この世界では、なかなか腹のうちを見せない人ばかりかと思ったら、こういう人もいるのを知った。その人の名は紫派藤間流家元藤間紫。はしなくも、人間藤間紫の真髄を垣間見たのであった。
「郵政民営化」一本だけで大勝した途端に、小泉さんが靖国参拝するやら憲法改正法案だの、増税問題がケロリと語られ、米国との基地再編の話が頭越しに決められて行く。内閣支持率や小泉支持率はまた上がっていくのだから、この国の国民は実におおらかだ。日本の戦後民主主義60年の積み重ねがこれである。お互いの主張を言い合うだけで、妥協点を見いだそうとする努力の仕方を知らない人たちの国なのである。テレビの「朝まで生テレビ」や「テレビタックル」を観ていればよく分かる。
自民党の派閥体制の崩壊を実現しつつある小泉さんのかっこ良さの蔭で、やたらレッテルを張って反対意見の口を封じながら、実はアメリカの押し付けが忠実に実行に移されていっているのである。イラクでの誘拐事件を「自己責任」で片付けてから、ボランティアでイラクに入る人もいなくなった。イラクからの報道は、外国筋や政府からのものばかりになったのも気になるところ。日本にもネオコンが蔓延しつつあるように見えてくる。しかもアメリカと違って、自民党も民主党も大差がなく、歴史認識もロクにない薄っぺらなエリート層が増えているから始末が悪い。こうして60年前の事実は風化して、一つひとつ逆戻りしつつあるのを感じる。
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